認知症というと、「最近のことを忘れる」「同じ質問を何度もする」といった記憶障害を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、認知症の原因となる病気は一つではなく、記憶力の低下が目立つものもあれば、幻視や身体の動かしにくさが現れるもの、性格や行動の変化が前面に出るものもあります。

こうした違いを知ることは、本人への接し方を考えるうえで大切です。たとえば、突然怒りっぽくなった人を「性格が変わった」と決めつけたり、実際には見えていないものが見えるという訴えを、ただの思い込みとして否定したりすると、本人の不安や周囲との摩擦が強まることがあります。

認知症の症状を理解するには、目に見える行動だけで判断せず、その背景にどのような脳の変化があるのかを考える必要があります。代表的なものとして、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、脳血管性認知症を取り上げ、それぞれの特徴と支援の考え方を解説します。

1. 認知症には、原因となる病気によって異なる特徴がある

認知症は、記憶力だけの問題ではない

認知症は、さまざまな原因によって認知機能が低下し、それまでできていた日常生活に支障が生じる状態です。記憶力だけでなく、判断力、注意力、言葉を理解したり使ったりする力、物事を計画して実行する力なども影響を受けます。

原因となる病気によって、どの機能がどのように損なわれるかは異なります。そのため、認知症のある人が示す行動も一様ではありません。

たとえば、ある人は新しい出来事を覚えることが難しくなる一方、別の人は実際には存在しない人や動物が見えると訴えることがあります。また、記憶力の低下よりも、衝動的な行動や感情の変化が目立つ人もいます。脳卒中などによって認知機能が低下する場合には、症状が現れる時期や程度が、脳の血管が障害された場所などによって変わります。

認知症の種類を知ることは、単に病名を覚えるためではありません。本人の行動を理解し、適切な診断や治療、生活上の工夫につなげるために役立ちます。

代表的な三つのタイプ

アルツハイマー型認知症以外の代表的なものとして、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、脳血管性認知症があります。それぞれ原因や症状の現れ方が異なり、支援の方法を考える際にも、その特徴を踏まえる必要があります。

ただし、実際の症状は教科書どおりに現れるとは限りません。複数の病気の特徴が重なっている場合もありますし、同じ診断名でも症状や進行の仕方には個人差があります。特徴を知ることは手掛かりになりますが、周囲の人だけで病名を決めつけず、医療機関で評価を受けることが大切です。

2. レビー小体型認知症――幻視や身体の動かしにくさが現れる

実際にはいない人や動物が見えることがある

レビー小体型認知症は、脳の神経細胞に「レビー小体」と呼ばれる異常なタンパク質のかたまりが現れることに関係する認知症です。記憶力の低下だけでなく、幻視や注意力の変動、身体の動かしにくさなどが特徴として知られています。

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幻視とは、実際には存在しないものが見えることです。たとえば、「部屋の隅に子どもが立っている」「知らない人が家の中にいる」「床を動物が歩いている」といった体験が起こることがあります。本人にとっては、単なる想像ではなく、本当に見えているように感じられます。

そのため、周囲の人が「そんなものはいないでしょう」「気のせいだから忘れて」と強く否定すると、本人は自分の体験を理解してもらえず、不安や孤独を感じることがあります。

このようなときは、見えているものの存在を無理に認める必要はありませんが、本人が感じている怖さや戸惑いには寄り添うことが大切です。「何か見えていて、不安なのですね」「一緒に確認してみましょう」と落ち着いて対応し、照明や室内の影、鏡に映るものなど、誤認を招きやすい環境も確認します。

幻視が新たに現れた場合には、レビー小体型認知症だけでなく、感染症や薬の影響、視力の低下など、ほかの原因も考える必要があります。急に症状が変わったときには、医療機関に相談することが重要です。

パーキンソン病に似た運動症状が現れる

レビー小体型認知症では、筋肉がこわばる、動作が遅くなる、小刻みに歩く、歩き始めにくくなるといった運動症状が見られることがあります。こうした特徴は、パーキンソン病でも見られます。

歩きにくさや姿勢の不安定さは、転倒の危険性を高めます。本人が「以前のように身体が動かない」と感じることもあり、外出や身の回りの動作に自信を失ってしまう場合があります。

また、注意力や意識のはっきりした程度が、時間帯や日によって変動することも特徴の一つです。午前中は比較的しっかりしていても、夕方には話が通じにくくなるなど、状態が一定しない場合があります。

こうした変化を「気分の問題」や「わざとできないふりをしている」と捉えると、本人に合った支援を見つけにくくなります。その日の状態を観察し、動作を急がせないことや、転倒しにくい環境を整えることが大切です。

薬の使い方にも注意が必要になる

レビー小体型認知症では、薬の種類によって症状が悪化することがあります。特に、一部の抗精神病薬などに対して強い過敏性を示すことがあるため、幻視や行動の変化を理由に薬を使用するときには、医師による慎重な判断が必要です。

本人がどのような症状を経験しているか、どの時間帯に変化が起きるか、転倒や睡眠の問題があるかなどを具体的に記録しておくと、診察時に役立ちます。介護する家族や支援者が日常の様子を伝えることも、適切な治療を考えるうえで重要です。

3. 前頭側頭型認知症――記憶よりも性格や行動の変化が目立つことがある

「人が変わった」と感じるほど、行動が変化する場合がある

前頭側頭型認知症は、主に脳の前頭葉や側頭葉の神経細胞が障害されることで起こる認知症です。前頭葉は、行動を調整したり、状況に応じて判断したり、感情や衝動をコントロールしたりする働きに関係しています。側頭葉は、言葉の理解や物事の意味、人の認識などに関わっています。

このため、前頭側頭型認知症では、初期から記憶障害が目立つとは限りません。むしろ、以前とは違う行動や性格の変化が、周囲に強く印象づけられることがあります。

たとえば、以前は穏やかだった人が、急に怒りっぽくなったり、場にそぐわない発言をしたりすることがあります。社会的なルールへの配慮が弱くなったり、同じ行動を繰り返したり、特定の食べ物に強くこだわったりする場合もあります。

こうした変化を目の当たりにした家族は、「なぜ急にこんな人になってしまったのだろう」と戸惑うかもしれません。しかし、本人の行動が変化する背景には、脳の働きの変化が関係している可能性があります。単に性格が悪くなった、思いやりがなくなったと決めつけるのは適切ではありません。

本人を叱るだけでは、問題は解決しにくい

衝動的な行動や大声、怒りなどが見られると、家族はつい注意したり、行動をやめさせようとしたりします。しかし、本人が状況に応じて行動を調整すること自体に難しさを抱えている場合、叱るだけでは改善につながらないことがあります。

むしろ、周囲から繰り返し責められることで、本人も家族も緊張し、生活上の摩擦が増えてしまう可能性があります。

そこで、本人の行動を観察し、どのような状況で起こるのかを確認することが大切です。刺激が多い場所で落ち着かなくなるのであれば、静かな環境に移ることが助けになるかもしれません。特定の行動を繰り返す場合には、安全を確保しながら、別の活動に自然に誘導できることもあります。

もちろん、すべての行動を周囲の工夫だけで解決できるわけではありません。家族だけで対応するのが難しい場合には、医療機関や介護の専門職に相談し、本人と家族の双方が無理なく暮らせる方法を考える必要があります。

「ピック病」という名称との関係

以前は、前頭葉や側頭葉の変性に関連する病気の一つとして「ピック病」という名称がよく使われていました。現在は、症状や病理学的な特徴に応じて、前頭側頭型認知症などの概念で整理されます。ピック病という名称は今も使われますが、前頭側頭型認知症のすべてがピック病というわけではありません。

大切なのは、病名だけで本人の行動を決めつけないことです。前頭側頭型認知症と診断されても、症状の現れ方や生活上の困難には個人差があります。本人が安心できる環境や、家族が対応しやすい方法を探すことが、日常生活を支えるうえで重要です。

4. 脳血管性認知症――脳卒中などによって認知機能が低下する

脳の血管の障害が認知機能に影響する

脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血など、脳の血管に関係する病気によって脳の組織が損傷し、認知機能が低下することで起こります。アルツハイマー型認知症などが神経細胞の変性を中心とするのに対して、脳血管性認知症では、血管障害による脳組織の損傷が重要な要因になります。

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脳は、場所によって担っている役割が異なります。そのため、血管障害が起こった場所や範囲によって、現れる症状も変わります。記憶力が低下する人もいれば、注意力や判断力、物事を段取りよく進める力が低下する人もいます。意欲が低下して、自分から何かを始めることが少なくなる場合もあります。

また、脳卒中によって身体の片側に麻痺が残ったり、言葉を話しにくくなったりすることもあります。こうした身体機能の障害と認知機能の低下が重なると、食事や着替え、移動など、日常生活のさまざまな場面で支援が必要になることがあります。

症状が段階的に変化することもある

脳血管性認知症では、脳卒中などの発症をきっかけに認知機能が低下することがあります。血管障害が繰り返されると、そのたびに生活上の困難が増える場合もあります。ただし、経過は一様ではなく、徐々に変化する人もいます。

たとえば、ある時期までは自分で買い物や家事ができていた人が、脳卒中の後に計画を立てたり、複数の作業を順序よく進めたりすることが難しくなることがあります。本人が「何をすればよいか分からない」と感じていても、周囲からは単に意欲がなくなったように見えるかもしれません。

このような場合には、本人のやる気を責めるのではなく、作業を小さな手順に分けたり、一度に伝える情報を減らしたりする工夫が役立つことがあります。身体の麻痺や歩行障害がある場合には、転倒を防ぐ環境づくりやリハビリテーションも重要になります。

血管の健康を守ることが重要になる

脳血管性認知症では、脳血管障害の予防や再発防止が重要です。高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などは、脳血管の健康に影響する要因です。持病の管理や禁煙、適度な身体活動、医師の指示に沿った服薬などを通じて、脳卒中のリスクを下げることが目指されます。

ただし、生活習慣を整えれば認知症を必ず防げるわけではありません。また、薬の種類や量は本人の病状によって異なるため、自己判断で服薬を始めたり中断したりせず、医師に相談することが大切です。

突然、片側の手足に力が入らなくなる、言葉が出にくくなる、顔の片側がゆがむといった症状が現れた場合には、認知症の問題と考えて様子を見るのではなく、脳卒中の可能性を考えて直ちに救急車を呼ぶ必要があります。早期の対応は、命を守るだけでなく、その後の生活機能を守るうえでも重要です。

5. 症状の違いを知ることが、本人に合ったケアにつながる

行動だけを見て、本人を評価しない

認知症のある人の行動には、周囲から理解しにくいものがあるかもしれません。何度も同じことを尋ねる、見えないものについて話す、突然怒る、何かを始める意欲が低下する。こうした様子を目にすると、家族や支援者は戸惑い、どう対応すればよいか分からなくなることがあります。

しかし、行動だけを切り取って「わがまま」「頑固」「性格が変わった」と評価してしまうと、背景にある病気や本人の困りごとを見落とす可能性があります。

たとえば、幻視がある人は、本人にとって現実に見えているものについて話しているのかもしれません。行動を調整することが難しい人は、自分でも理由を説明できないまま、衝動的な行動を取ってしまうことがあります。意欲が低下した人は、何をすればよいか分からず、動き出せなくなっている可能性もあります。

本人の行動を理解するには、症状の特徴だけでなく、身体の不調や薬の影響、住環境、周囲の接し方なども含めて考える必要があります。

診断名を知ることは、支援方法を考える出発点

認知症の種類によって症状の傾向が異なることを知れば、本人への対応を考える手掛かりになります。しかし、病名だけですべてを説明できるわけではありません。同じ種類の認知症でも、症状や生活上の困難には大きな個人差があります。

そのため、診断を受けた後も、本人がどのようなことに困っているのか、どのような環境なら落ち着いて過ごせるのかを観察し続けることが大切です。必要に応じて、医師、看護師、介護職、リハビリテーション職などに日常の様子を伝え、本人に合った支援を検討します。

また、認知症に似た症状があっても、せん妄、うつ状態、薬の副作用、身体疾患など、別の原因が関係している場合があります。急に混乱が強くなったり、普段と大きく様子が変わったりしたときには、認知症が進んだと決めつけず、早めに医療機関へ相談することが重要です。

6. 認知症を理解することは、その人らしい暮らしを守ること

レビー小体型認知症では、幻視や身体の動かしにくさが目立つことがあります。前頭側頭型認知症では、性格や行動の変化が前面に出る場合があります。脳血管性認知症では、脳卒中などによる損傷の場所や程度に応じて、認知機能や身体機能にさまざまな変化が生じます。

これらの違いを知ることは、認知症のある人を分類するためだけの知識ではありません。本人の言動を理解し、必要な医療につなげ、日常生活を支える方法を考えるための知識です。

認知症があっても、その人の人生や価値観が消えてしまうわけではありません。好きな食べ物、なじみのある音楽、長年続けてきた習慣、家族や友人との思い出など、本人らしさを支えるものは残っています。できなくなったことだけに目を向けるのではなく、今できることや、安心して取り組めることを見つける姿勢が大切です。

認知症の種類によって症状は異なりますが、支援に共通する基本は、本人の尊厳を守り、困りごとの背景を理解し、安心できる環境を整えることです。病名を知ることを出発点に、一人ひとりに合ったケアを考えていくことが、本人と家族の暮らしを支える力になります。